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2008年11月9日

ツール・ド・おきなわで優勝 ヴィーナスを駆る武末真和選手(オッティモ)

ツール・ド・おきなわ市民200kmでエヴァディオ・ヴィーナスを駆る武末真和選手(オッティモ)が優勝を飾りました。
武末選手は元バレーの実業団選手で、怪我がもとで自転車レースに転向、わずかレース暦2年で市民レース最高峰の同大会での優勝の栄冠を掴みました。

エヴァディオは武末選手に機材提供しているわけではなく、武末選手がご自身で購入されたヴィーナスに乗っていただいています。武末選手の語る「天使」となった愛娘の真純ちゃんと、我々エヴァディオの「ヴィーナス」が取り持った不思議な縁を感じずにはいられません。私たちエヴァディオは武末選手の勝利を心から祝福し、今後の活躍にエールを送ります。

ツール・ド・おきなわ市民200km表彰式。中央が優勝した武末真和選手(オッティモ)


ツール・ド・おきなわ市民200km優勝レポート by武末真和

天国の娘に捧げる市民200km勝利の栄誉


バレーでの怪我による挫折から自転車の世界へ

自転車を始めるきっかけとなったのは、当時やっていた社会人バレ−の練習中の怪我だった。自分のバレー人生としては、中学では千葉県代表で、全国準優勝。高校では春高やインターハイ出場、大学時代もインカレベスト16になった。社会人クラブチームでも学生時代に果たせなかった夢の全国優勝をめざしていた。そんなバレー人生に転機が訪れる。

練習中の怪我により、左膝の靭帯断裂が2回。靭帯再建術(全身麻酔による靭帯移植の手術、手術時間5時間)小さな手術含めると合計4回。その後のリハビリ期間8ヶ月。まともにバレーができるようになるまで1年以上かかる。そんな状態が2回繰り返した。ただし完全に元の状態には戻れない。
誰もが選手生活をあきらめてしまう様な大怪我。しかし、その時の自分には誇れるものがバレーしかなかった。
そんな自分にとって、怪我は本当にショックだった。心の中にポッカリと穴があいた様な感覚。全てがどうでもいいと思える様な感覚。どんなに悔やんでも、怪我をする前の自分にはもう戻ることができない。

高校総体バレーでの一コマ(平成4年)。ずっとバレーだけがすべてだった
「もうムキになってスポ−ツをする歳では無いのだ」と自分に言い聞かせる毎日。そんな中リハビリの為、会社の先輩から勧められて自転車に乗った。河川敷でサイクリングかと思いきや、ぶっちぎられて置いてけぼりに。頭に来てその日のうちに自転車を購入してしまった(笑)。
怪我後、バレ−ではろくな練習もして無いうちから膝が腫れあがって動けなくなってしまっていたが、自転車ではいくら練習しても足が腫れることはない。久しぶりに、練習での満足感を感じることができた。

バレ−復帰のリハビリとして、片道23キロの自転車通勤もはじめた。バレ−では自分の動きができないが、自転車ならぶっ倒れるまで踏める。そんなことだけでやたら嬉しかった。
どんどん自転車にのめり込んでいった。そんなとき、本屋でふと手にした自転車マンガ『シャカリキ』。マンガの中で出てくる、ツール・ド・おきなわに憧れた。自分も出てみたい。そう思うようになっていた。

ネットで調べると、地元千葉の自転車チーム『オッティモ』の増田君がその年の120キロのチャンピオンだったことから『オッティモ』を知り、練習に参加させてもらう。生意気にも、根性で負けるわけがないと挑んだが、チームのエース塚野さんとの競り合いの末、完全にぶっちぎられた。負けた事は悔しかったが、このチームで強くなれる!と確信し、それがとても嬉しかった。

そしてついに2年前、バレーを辞めて、本格的に自転車レ−スに参戦。実業団登録するまでとなる。種目は違えど現役復活の瞬間であった。 しかし、そんなに甘い世界ではなかった。経験の無さから実業団レ−ス中、下りのコーナーを曲がりきれず、オ−バ−スピ−ドで大落車。病院送りになる。ここから下りに苦手意識が出るようになる。

レースを重ねるにつれ、自分は下りのテクニックがまるで無く、駆け引きがめっぽう苦手。しかし、経験がなくてもどうにかなる根性勝負的な登りや、泥仕合が向いている様だった。
実業団レースでは、テクニックと、経験の無さから(今でもまだ勉強中)なかなか結果が出ない。去年(2007年)ツール・ド・おきなわに参加するも、完走できればいいと思っていた。
しかし走ってみると晴れた沖縄の道はすばらしく、コーナーの少ない広い道と、200kmという長い距離は自分には合っているようだった。運良く、得意の根性勝負にからめて、自分でも驚きの3位になってしまった。

ただ、嬉しいのは当日のみ。あと少し頑張れたんじゃないか?!とふつふつと悔しさがこみ上げてきた。自分の人生、『一番』には縁がないのか。人生に一度、一番になってみたい。そう強く思うようになっていた。

雨のなかスタート

今日は朝からあいにくの雨。スタート前、左右に広がる暗くだだっ広い道路は、荒れたレースを予感させる。雨のレースは、自分の最も苦手とするレースであり、どうやってもテンションは上がらない。とりあえず落車のリスクを減らす為に、脚を使ってでも、なるべく集団前方へ出る事に決めた。

1回目の普及川ダム。オ−ベストの西谷さんがガンガンスピードをあげる。さすが西谷さんだ。自分もこれについて行くが、やたらと身体が重い。まわりは10名ぐらいか? お馴染みの有力どころが顔を揃える!
大会屈指のヒルクライマ−セオレ−シングの鵜沢さんもいる。1回目の登りからキツイが、ここは根性だけで付いていった。

頂上を10〜20人くらいの集団で通過。この時点ではスタ−トからの視界の悪さと300人という参加選手の多さから逃げの選手を確認できず、自分達が先頭集団だと思っていた。そして、その数名の選手の逃げとともに高岡さんもこの辺りから逃げ始めることを後で知る。

自分はというと、雨の中の下り、ここで、初めて使うカ−ボンホイ−ルに悪戦苦闘! 雨でブレ−キの効きがどうにも悪い。他の選手のマ−クどころでは無く、ここでも自転車の経験不足に先が思いやられた。どうにか坂を下りきるが、その先に悪夢が待っていた。

悪夢のトンネル大落車!

集団がスピ−ドに乗った状態でトンネルに入って行く。自分も続いて入ろうかと思ったその瞬間、真っ暗なトンネルの先からガシャガシャガシャと途切れる事なく続く嫌な音!
薄暗いトンネル前方でよく見えないが、最悪の状態が待っている!するとまるで、ドミノ倒しのごとく、自分の前に迫る前方からの大集団落車の波! それがすぐ目の前までやってきているのだ。
転んだ人の上に人! 次々人の上に人が積みかさなって行く。人を轢いて前転しながら吹っ飛んでいく人も。最悪の状態が自分の番を待つ。

自分も慌ててフルブレ−キ! 最後にはタイヤをロックさせてしまう。もう転んでもスピ−ドが緩んでくれれば良いとしか思えなかった。 しかし、なんと運良く、斜めに縁石にぶつかり、ギリギリのところで止まれた! 本当にツイていた。

なんとか大落車には巻き込まれずにすんだが、横をみればさらに後ろから人が降ってくる。足の踏み場もない悲惨な状態。なかなかレ−スに復帰する事もできない。
しばらくして落車から復帰した人で、再度集団を作るも、このアクシデントにより、誰が逃げているのか全く分からなくなってしまった。

このとき、同じチ−ムの塚野さんも落車せず、2人でなんとか集団に復帰する事ができた。こんな状態で同じチ−ムの人がいるのは、かなり心強かった。
集団はひどい落車からの復帰で、レ−スに集中できないのか、2回目の普及川ダムはゆっくりと通過して行く。
あまりに遅いので、少しペ−スをあげるてみると、10メ−トルぐらいの差ができた! 登りもあと少しで終わりという微妙な差だったので、行くか行かないか躊躇していると、後ろから「武末行け−!」と同じチ−ムの塚野さんから活が入る!
「これは行くしかない」とペ−スをあげるが、飛び出した3人のうちの1人が後ろにベタ付きしてペ−スをあげさせてくれない!
ほどなく集団に吸収され、まったりしたまま集団は進んだ。しばらくして、ペースアップを図ろうと奈良浩さん(チーム物見山)が出てきた。何人かとペ−スを作り始めると、ここに自分ものっかる。

さらに途中、集団の中から情報が伝わり、この集団の前に6人いる事が分かった。それを知り「追いつこう」と集団のペ−スは上がってきた。
しかしロ−テーションは6〜7人程度でしか回さず、それ以外の人は後ろにつきっぱなし。それでもかまわずペースを上げ続けた。その結果アップダウンのある道で、前方3人を捕らえる。そして3人を吸収するが、あとの3人の影は全くない。
あの大落車の混乱からいろんな情報が飛び交う。西谷選手が落車して降りたとか! そして審判のバイクも無く、前との時間も分からないひどい状況!

そうこうしているうちに、集団のまま最後の登り源河を迎えた。このままでは前3人を吸収したとしても集団スプリントになってしまう・・・この大集団でのスプリントでは表彰台の確率も低い。となれば、この集団を切り単独で追いつくしかない。

ここは腹を決めて渾身のヒルクライム!! 坂の手前からスピードをあげる。
ツライ。が、ここで足を緩めるわけにはいかない。
皆と同じ辛さで登っても駄目なのだ!この集団で1番きついヒルクライムをしなければ優勝争いに参加できない! ツライけどここは、さらにスピ−ドアップ。めいいっぱい全開! しばらくして、ふと後ろ振り向くと誰もいなくなっていた。

そのまま単独で上り続けていた。そのとき・・・見えた!!2人!。一人は西谷さんだ! 落車で降りてはいなかった!どうやら落車の混乱で誰かと見間違えたのだろう。もう一人は(多分)アクアタマチームの人だ。ここで逃げている3人のうち2人を捕らえる。二人を抜かせば、まずは表彰台だ
結構な距離を逃げていた2人のペ−スは、上がりそうも無い様子。そのままで2人をパスして単独で行くことに。

頂上へ、そして、越えて下り! 後ろとのアドバンテ−ジを生かす為にも休まず踏みながら下る!
余力は残せない! ここも全開! 下りでこんなにキツイ思いをしたことがない! そして海岸線に。脇に付いてくれた審判バイクが情報をくれる

『前、高岡、40秒!』と聞こえた。なにしろ意識はもうろうとしていてよく覚えていない。
ん?タカオカ?! なんと最後の一人は、高岡亮寛さん(イナーメ・アイランド2XU)だった!
彼は、かれこれ100キロ以上逃げている事になる。いやはや、なんという脚を持っているのか!しかし、こうなれば条件は自分の方が良いはずと言い聞かせる。

高岡選手との一騎打ち

海岸線をよく見れば、はるか先に先導バイクであろう赤ランプが見える。目標が見えたことで、意識は後ろから前に切り替わった。ここからは追走モ−ドだ。
残り12〜13キロ。交わすのは難しいかもしれないが・・・やるしかない。
こんな『大勝負』ができるチャンスは、そうは無い!
練習を含め、最大の努力で得られるのは、『大勝負できる権利』であって『勝利』ではない。

学生時代(バレ−部時代)には、それに気がつかずそのチャンスを生かせなかった。そして、去年の沖縄も。このチャンスを生かすも殺すも、今ここにいる自分、ここにいる自分次第なのだ。
ツライ練習の対価として『大勝負できるチャンス』に幸運にも恵まれたのだ。鳥肌が立つような最高の場面である!

意識がなくなっても回し続けなければ損だ。すると、バイクの審判車が、知らせるタイムが5秒縮む。
『ち、縮んでる・・・?!』しかしゴ−ルまでの距離もどんどん迫ってくる。届くのか?いや、届かせる!届かせてみせる!

審判の車やバイクが出してくれるホワイトボ−ドを意識しながら全開走行をしていると、不思議とまだ姿も見えない高岡さんが、タイム差を通して近くに感じる。自分が苦しみの中でなんとか差を詰めるように、高岡さんも同じように逃げ切ろうと必死の形相! そんな様子が見えるようだ。まるで隣でやりやっているような感覚!
まさしく、最後の10キロは、2人だけの真剣勝負!

残り5〜6キロ。『30秒差!』もう目の前に高岡さんの姿も見えているが、むこうも粘っている。さらに、スピードを上げるようと試みるが、身体はほぼ限界。
スピ−ドがあがるのはほんの一瞬で、長くは続かない。残りの距離を考えるとこのままじゃピンチ。気は焦る。が、足は既にパンパン。なかなか届かない。

『相手は100キロ以上逃げている。足が残っているのは自分のはず』。再度言い聞かせて自分に何度も喝を入れる。

ときおりバイクから出されるタイムは、1秒ずつしか縮まなくなってしまった。しかし、また1秒、また1秒。その積み重ね。ゴ−ル間近。ゴ−ルが迫ってしまう。
そして、残り1.5キロを過ぎた。なんとここで高岡さんを捕らえる!

しかし、ここで後ろにつかれたら、経験の差で負ける。大きく深呼吸! 間髪いれず、腰を上げるのもツライ状態! 限界状態でのアタック! よそから見たらとてもアタックと言えるような代物ではなかっただろう! しかし、ついに先頭にたった! もう目の前が真っ白になりそうだ。

振り返ってベタづきされていたら、諦めるしかない。そんな恐怖から、後ろを確認する事ができない。何百メ−トルもがいたか? 足に力も入らない。自分の脚がどこにあるのか感覚もない。

残り1キロの看板を過ぎる! 口から泡が出てくる。間近に感じていたゴールも、追われる身となってみれば、残り1キロが永遠かの様に長い。10キロにも、100キロにも感じる。
ここで初めて恐る恐る後ろを確認する。と・・・少し差が開いていた。『いけるかもしれない』初めてそう思った。

残り500メ−トル看板が先に見える! もがきながらも、しかし、去年の最後の悪夢を思い出す。最後の最後まで気が緩めない。
再度、残った力を搾り出し踏みなおす。そして、残り50メ−トル。もう1度恐怖の中で後ろを確認。さらに差が開いた!信じられない。自分が優勝してしまう。この1年の色々な事が頭をよぎる。

辛い事。悲しい事。もちろん嬉しい事も。そして・・・歓喜のゴ−ル!

ゴールした瞬間、歓喜に包まれた
来たぁ−! 念願の初優勝だぁ! 喜び溢れて全身がしびれまくる! こんな感じ、そうそう人生にあるものではない。何か、とんでもない事をしてしまったようで、場違いな感じもする! 凄い違和感があったり!でも、うれしぃ〜最高だぁ〜!

沿道の観客から拍手を貰う。さらに見ていた外人さんが興奮しながら、「Good Job! Good Job!」なんて言われて少し恥ずかしかったりもした。最高の瞬間!腹の底から笑みが湧き出てきた!

早く嫁さんに知らせたい!念願の報告を。2ヶ月前にカレンダ−に「おきなわ」と一緒に書き込んで「今日から一緒に頑張ろうね」と言ってくれた嫁の純子に・・・。

おきなわテレビの取材があったそうだが、それより嫁さんに電話報告したい。ホテルへ急ごう! ホテルに戻り、びしょびしょに濡れたまま電話。電話越しで嫁さんは本当に喜んでくれた!自分はそれを聞いて涙が少し出てしまった。沖縄でのこの日、一生忘れられない日になった。

天国にいった娘

この勝利は娘の「真純」に捧げたい。今年1月、ママのお腹の中で天使になってしまった自分の娘に。1週間嫁さんと一緒に泣き続け、最後のお別れの日「パパはおきなわで勝つから見てて欲しい」と、娘と約束した。この約束が守れた今、やっとあの時の悲しみが報われた気がした。

大会を振り返って

今大会の2位高岡さんは、正直、今大会一凄い脚を持っていた。100キロ以上逃げて、しかも勝ちにきていた。また、3位の奈良さんは荒れたレ−スでなかったらどっちが先にゴールしていたかわからない、経験豊富な自分の尊敬する選手の一人だ。
また、今回は雨で波乱のレース展開。実力を出し切れずに終わった選手が多かった。
自分の優勝は、雨による波乱のレース展開のおかげで、逆にチャンスがまわってきたと言ってもいいだろう。できれば来年は、カラカラに晴れた最高の沖縄で力勝負(泥試合)をしてみたい。
沖縄のレースは特別だ。自分たちのために用意してくれた、全面通行止めの道路。晴れていれば最高の景色に囲まれて思う存分戦える素晴らしいステージだ。この素晴らしいステージを毎年用意してくれる関係者の方々や、協力してくれる地元の方には本当に感謝しています。来年も、その先もずっと、自分たち自転車乗りの憧れの場所であって欲しいと願っています。これからもよろしくお願いします!


使用バイクのデータ

フレーム:エヴァディオ・ヴィーナス
フレームサイズ:560mm
フロントホイール:マヴィック・キシリウムSL
リアホイール:フルクラム・レーシングスピード
実測重量:7.7kg
空気圧:7.5kgf/cm2

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